障害特許は発明の父

3月に入り暖かくなってきました。(大阪ローカルの感触です)               新型コロナの第6波もピークアウトはしたようで、少しほっとしていますが、まだまだ感染者数も多く、安心はできません。                                   次の波に備えて、3回目のワクチン接種と治療薬の普及が進めば良いのですが。

研究者としてまだまだ駆け出しの頃のお話です。                      事業部から吸水性多孔シートの開発を依頼されました。                   垂直に立てたシートの下部を水に浸し、高く、速やかに大量の水を吸い上げることができるものが求められました。

ここで若き平井研究員は考えました。                           毛細管現象なので高くまで吸い上げるには孔のサイズは小さいほうが良く、吸い上げ量を稼ぐには全体的な空隙率は多い方が良さそう。                           けれどもその両立は理論上、また強度的にも製造法的にも難しそうなので、とりあえずバランスのとれたところを探そう。                                 いくつか試作を行った結果、吸い上げ高さと吸い上げ量をいずれも適度に満足する孔のサイズと空隙率を見つけられそうなところまでたどり着きました。

ところがここで一件の成立特許を見つけてしまいます。                   同じような素材・構成で、同様の用途に用いられる多孔性シートについて、まさに空隙率を規定した発明で、その範囲は見事に平井研究員が狙っていた領域を含んでいます。          愕然とした平井研究員はとりあえずこの障害特許の回避を試みるのですが、これまで進めてきたやり方ではうまくいきません。                               空隙率を上に外すと高くまで吸い上がらず、下に外すと十分な吸い上げ量が得られず。     万事休すか・・・

その後、あきらめきれずに試行錯誤を繰り返していたのですが、たまたま同僚が別の研究で創り出した物質に目を付け、それでシートを表面処理したところ、吸い上がる、吸い上がる。     結果的に障害特許を回避できただけでなく、単純に穴のサイズや量を調整していたときよりも高く、多量に水を吸い上げられるシートが得られ、製品化にたどり着くことができました。

その後の研究生活においても何度かこのような先行特許の壁にぶち当たるのですが、これが初めて直面した特許の怖さでした。                               ただ、この特許がなければ当初想定していた常識的な範囲での研究にとどまり、その結果に満足していたかもしれませんし、この特許のおかげで面白い研究ができたのかな、と思ったりします。

必要は発明の母と言われますが、障害特許は発明の父(母よりも厳しいということで)かもしれません。